ニューヨークの旅 No.22 2016年夏、ニューヨークへの旅 終わりのページで

8月15日、まだ暑さの色濃く残っている午後3時を回って私たちの飛行機は成田空港国際線の滑走路に滑り込みました。

「ああ、戻ってきたわねー!」「楽しい旅をどうもありがとう!」という会話をあわただしくマダムとかわして、私たちはANAの係員の案内で空港に降り立ちました、日本の地面を踏みしめている感覚、オーバーに表現するとしたならば『これがわが国』といったところです。

そして機から下りたらまずなんといってもウランのワンツータイム、それから食事をということです。彼女はほぼ20時間ほど飲まず食わずでしたし、13時間排泄もしないで過ごしてきたのですから。

『障害者用トイレルーム』の横、人の来ないような場所を選んで腰にベルトを巻いてあげると『まっていましたー!』とばかりに小腰をかがめて、ビニール袋にたっぷりなワンをまずしました、それからビニール袋を取り換えてやりますと再度私の周りを回ってあまりためらうこともなくたっぷりなツーも出してくれました。

「グッドグッド!よくがんばったねー!」と頭をいっぱい撫でてほめてやります。それから間をおかないで「おなかがペコペコのペコちゃんでしょ、さあいいですよ」と食事タイムです。いつも相変わらないドッグフードですが、それこそいつも以上に一気に、「あっ」という間もなくガツガツと食べて、それからウランは『げぶーっ!』と大きなゲップをしました。私もマダムも、そしてお世話係でついてきてくださっているANA係員の人も、ここまでは「よーくがんばってけなげだわねー!」とやや感動の気持ちでしたが……、この大きな、場所をはばからないゲップで「あらまあ!」と、大笑いとなりました。

そんな中をウランだけは『それほどでもー!』というように、恥ずかしそうに、それでいながら大満足だわーとばかりに、自分の口の周りを舌べろでペロペロと舐めていました。

私たち人間の入国手続きも、ウランの検疫所での入国手続きも、そして機内預けのトランクを受け取ることも、ANAの職員の人が手早く手続きをしてくれたおかげで実にスムーズに事が運んで、とても助かりました。そんなこんなでこ1時間ほどかかりましたが、私たちは4時30分ころに、『日本入国ゲート』にたどり着くことができました。そこに待っていてくれたのがわが息子幹太、ウランの大好きな『わたしの兄ちゃん』でした。

幹太を発見するやウランの表情は一変、『わー、わたしの兄ちゃんだー!』と体全体が喜びで満ち溢れて、このうれしさをどうしたらいいのかしらといった様子でした。このウランの喜びようは、いつもの日常生活の中ではほとんど見せることのない、本当にただひたすらに、掛け値無しの喜びようなのです。その様子を眺める時、2人の子供のお母さんである私は、「これが家族の姿なんだわー!」と、いつも思います。そしてこの家族の中でいつまでもお母さんとして生きて行きたいとも思うのです。

書き続けてきました『2016年夏、ニューヨークの旅』はこれでおしまいです。旅日記を書くということは、その旅を3回楽しませてもらえます。まず出かける前にいろいろ想像して、空想して、楽しみます。そして実際にその土地を訪ねて、その土地の人たちと触れ合って、喜びを実際にかみしめて楽しみます。そして旅日記を書きながら、あんなことも、こんなこともあったわねーと、また楽しむことができます。だから私はこの旅日記を書くことが殊の外(ことのほか)好きですし、また私にとって楽しい作業でもあるのです。

ニューヨークは若者の街だと言われます、すごいパワーが、エネルギーが満ち溢れていて、そうだなーと実感しましたが、それ以上にニューヨークは誰もを若者にしてくれる街だと、今回この地下鉄を利用しながら訪ね歩き、そして街角でいろいろな人種の人たちからやさしさをもらって、とてもそれを実感いたしました。両方の手を思い切り伸ばします、すると指先に何かが触れます、それは人であり、そこに存在するエネルギーであり、あるいは漂う空気でもあります。優しい手は必ず同じ優しさに溢れた手に触れることができます。感動した手を伸ばせば、同じように感動した手に触れるということです、これは求めれば必ず与えられるともいえることだと思います。ただその手を伸ばすか、そこで伸ばさないかは、その人が持っている情熱であり、強い意志、気持ちでもあると思うのです。

私は自分の手をあらゆるところで思い切り伸ばせる自分でいたい、その精神的若さを常に持ち続けている人間でいたいと願って、ベーチェットで失明してからの年齢をここまで重ねてきました。今回ニューヨークを訪ねて、いろいろな人の心に触れて、より一層その思いを強く持ちました。いつまでも自分の理想とする夢を追い続けていられる人間でいたい…。だからある確信を持って言えます。

「ニューヨークは誰もを若者にしてくれる街です」と。 THE END

”写真022”

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