16時、予定通り錦糸町駅前から羽田空港へのリムジンバスに乗りました、これは国内線第1ターミナル、第2ターミナルを回って最後に国際線建物に着くのです。
フローラは兄ちゃんも一緒だからうれしくてわが家を出るところからすでに上機嫌、ルンルン気分です、しっぽを高々と垂直にあげて扇風機のように振っています。
羽田空港では国際線出発ロビーでまず海外旅行保険手続きをします、この保険は今まで1回もお世話になったことがありませんが、それがなによりの幸せな旅行だった証です。
しかしいざという時にやはり必要なもので、毎回『いざ』などということが起きないことを祈りながらの手続きです。
夕方から夜にかけての出発便がすくないためでしょうか、保険受付カウンターは先客がいなくて、すぐに書類は整って、お金を支払って終わりました。
集合の18時までにかなりまだ時間がありますが、日本のお土産を眺めてもあまり興味も持てないので空港を見通せる展望台に出ることにしましたが、やはり日中の気温の高さがそこにはまだかなりな暑さで残っていて、フローラの足には『あっちっちー!』でした。
「やはり外はむりだなー!」と幹太が言って、そこで天井高く設営してある日本橋に上がることにしました。
日本橋の本来ならば無いベンチに腰をかけていると携帯電話が鳴って、「どこにいるの?」とうっちゃんです。
「日本橋の上にいるわ、すぐ横が展望台に出るドアのところよ」と伝えます。
しかしなかなかうっちゃんは大きなトランクを持って現れません、そしてしばらくすると「日本橋ってどこ?」とまた電話です。
「日本橋は出発ロビーフロアから階段を上がって、おみやげやさんの並んでいるその上にかかっているわよ、上の方を見て!」と応えます。
「いやー、迷っちゃってさ」と笑いながら大きなトランクとともにうっちゃんが現れました、昨日まで仕事で、徹夜で荷造りをして、早朝に妙高高原から出発してきた人とはとても思えないほどの元気いっぱいのうっちゃんです。
そして日本橋の上でフローラに最後の水を飲ませて、いよいよ集合時間の18時になりました。
約束の場所にはミセスKも、テーチャーエミコもそれぞれ旅支度で、笑顔いっぱいです、そして昨年プラハにいっしょに行ったかなこちゃんもママを見送りに出てきていました。
彼女は昨年は学生さんだったけれど、今年は社会人で、その勤務先はこの羽田空港内なのです。
「かなこちゃん、ずいぶん大人になったねー!」と思わず私が言いますと、「ななえさん、私って昨年はそんなに子供だった?」とやや不満そうなかなこちゃんです。
「そうよ、子供だったわ、失恋旅行だなんて言いながら、スナック菓子をボリボリ食べているんだもの」と私が言うと、かなこちゃんは笑いながら「そうそうそうだったわ、ななえさんにどこが失恋旅行よ、それだけ食べられれば失恋なんてどこかに吹っ飛んでいるわよって言われたんだわ」と彼女はそう言って、屈託な下げにあははと大笑いです。
機内預かり荷物受付がまだはじまらないので、とりあえず『出発式』をしましょうということになって、ここで幹太とはバイバイです。
「あれー、にいちゃんはいかないの?!」とフローラがつまらなそうに幹太兄ちゃんを眺めていますが、「フーちゃんは初めての海外、楽しんできてね」と頭を撫でられて、またまたしっぽは垂直で扇風機振りとなりました。
私たちは出発ロビーからひとつ階を上がって『居酒屋・杉の子』のお客となりました。
日本食もしばらくさよならかしらなどということは私たちのこの旅行にはまったくありません、いつも朝ごはんはおにぎりだったり、納豆ごはんだったり、うどんだったりです。
それは短期宿泊アパートメントハウスにキッチンがついていること、それに参加する人たちの手早い食事準備の業があるからで、ミセスKの大きなトランクにはそのための食材がいっぱい詰め込まれているのです。
えみこママにくっついてきたかなこちゃんもアルコール入りの飲み物を手にして、私たちは無事な旅を祈って、声をそろえて「かんぱーい!」です。
「やはりかなこちゃんは大人になったのねー、昨年はコーラなんかをだったけれど、今年はちゃーんとアルコール飲料だものねー」と私が言うと、「いやだーななえさん、これでも二十歳になったのよ」とかなこちゃんの無邪気な笑顔です。
私が二十歳だったころを思えば、こんなにかわいらしかったかなーと青臭かった自分の姿を今更ながら恥ずかしく苦笑まじりに思い出してしまいました。
さあいよいよエールフランス、搭乗が始まりました、私とミセスKが隣同士で、なんとエールフランスの粋なはからいでしょうか、3人掛けの座席を私たち2人で使わせてくださるというのです、もちろんそれは足元にダウンするフローラへのあたたかで穏やかな配慮でした。
「いよいよだよ、フーちゃん空の上をフワフワ飛んでいくのよ」と言っても、初めての飛行機に乗るフローラは「それって何のこと?!」とばかりに大きなあくびをしました。