Kが亡くなったという悲報を伝えてくれたのはヌマヌマさんでした。
「ななえさん?」、受話器から呼びかけるヌマヌマさんの声があまりに低いので、胸苦しいほどの胸騒ぎでした。
「えー、亡くなった?亡くなっちゃったのね」
応じた私の声も、自分の声でないほどに低くなっていました。
Kとは60年前入学した高校の校舎から技術室へつながる校庭ですれ違い、上級生だったので慌てて1歩退て、なんとはなく頭をやや下げての出会いでした。
彼は学生服で坊主刈り、私は紺サージのブレザーの上着と箱ひだスカートでおさげ髪で、そこから60年、手をつないだこともなく、ずーっと着かず離れずの『淡々としたボーイフレンドとガールフレンド』、友達の領域内でのおつきあいでした。
しゃくにさわったこともあったし、つっかかったこともあったけれど、でも面倒見の良いボーイフレンドだったなーと、良き男だったなーと、今はそう思います。
癌を患った彼に、「ボチボチだよ、もうボチボチでいいんだからね」と言う私に、「うんうん、わかっている」と苦笑いの声が応えてくれた、5月の電話が最後でした。
ただ約束の、「私が死んだら、ささやかなお別れの会では、幹太を助けてやってね」って事だけが置忘れで、ポツリと残ってしまいました。