南フランス・フロバンスへの旅 はじめのページで

 「ななえさん、今年の夏はどこにする?」
例年のごとく5月の連休、その谷間のころだったでしょうか、はずむ声で旅の部長、ミセスKから電話がかかってきました。
その頃の私といったら、たくさんの問題を抱えて身動きならない状態に陥っていて、不眠症が再発で睡眠薬を飲まなければ眠れない、気分は常に陰鬱でブルー一色でした。
このミセスKからの旅へのお誘い電話は、そんな私の最悪精神状態のところにあたかも1滴の明るい『希望色』の水滴を落としてくれるがためにかかってきたかのような効き目がありました。
この電話によって私の心の中に柔らかな光が差し込んで、またたく間に満ち溢れて、それがエネルギー源となって、気持ちの中に明るく火がともったのです。
『あるがままの自分でいいのだわ』と思いました。
背伸びをする必要もないし、自分を自ら卑下する必要もない、常にこのあるがままの自分でいたい、そんな願いが確信となって、心の底からムクムクと立ち上がってきました。
鬱々とした思いで、いささか錆びついてしまった自分の心の主軸をギー、ギギッーッと回して、精神転換を計って、その示す針を『あるがままの自分』に合わせました。
 2月に私の盲導犬になったばかりの5番目のしっぽのある娘フローラは、やんちゃで好奇心いっぱい、今はまだ『若葉マーク盲導犬』です。
その彼女が今回の海外への旅で何を見て、何を感じて、まったく違った環境の中でお互いに心を通わせあうことによって私たちはどれだけ関係を深め、協調し合うことを学びあえるでしょうか。
そう思えば、これからのフローラとの生活の中で今回の海外への旅はとても大きな力になってくれるはずだとも思えました。
「そうねー、フローラとの最初の海外はどこがいいかしら?!?!」
しょぼくれた心が少しづつ希望色に染まっていくのが自分自身でわかりました。

ミセスKがそんな私の背中を圧すかのように笑顔の声で言うのです。
「ねえななえさん、今のところうっちゃんとの話であがっている候補地はヨーロッパだったらフランス、スイスは2度目だけれどスイス、そしてドイツってところかなー。
でもななえさんがもう1度アメリカにとかさ、カナダにとかのリクエストがあれば、それもOKよ」
「まよっちゃうわねー・・・・」
私はフランス?!、ドイツ?!、スイス?!と、思いをめぐらせます、実に楽しい『考えるひととき』です。
「ねえねえ、フローラという名前にふさわしい国って・・・・、やはりフランスじゃあないかしら?!?!」
ミセスKのその電話につぶやくように応えたのです。
 その後のすばらしく迅速な動きだったこと、目を見張るような段取りの良さで次々と『私たちのフランス旅行』のスケジュールは具体化されていきました。
今回の南フランス・フロバンスへの旅はミセスKが団長、うっちゃん、昨年プラハも一緒に旅した美人テーチャーのエミコさん、そして私とフローラの女性4名と盲導犬のチームです。
中学校女性教師組みのミセスKとうっちゃん、そしてテーチャーエミコが大奮闘、全精力をあげてインターネットであちらこちらと連絡を取り合って、またたく間に楽しい旅行のプランが徐々に形ができてゆきました、私はただただ安穏とその報告を電話で、メールで受け取って、そこに自分なりの夢を描いていくのです。
まずエールフランスの8月6日羽田空港からシャルルドゴール空港、8月14日シャルルドゴール空港から羽田空港のチケット予約完了、それもエコノミークラスのスペシャルな座席、足元が少し広めなところが通路を挟んで横に1列で取れました。
これでフローラのほぼ13時間ほどの飛行時間の安眠は確保されました。
それから宿泊地となるフロバンスで女性4名 プラス 盲導犬が5泊できる短期宿泊アパートメントハウスの予約がとれました、それもベーチェットの後遺症で関節がこわばる私のためにバスつきのアパートメントハウスだということです。
そしてラッキーなことに、この宿泊アパートメントハウスから歩いて行ける距離に、フランス滞在中のフローラの健康状態をチェックしてもらう動物病院を見つけることができたのです。
そこにうっちゃんが即メールを出して、診察依頼をして、予約をとることができました。
書類に公印を押してもらう役所はマルセィユにあることがわかって、そことも連絡が取れて、午前中に動物病院での診察を、同じ日の午後からマルセィユに向かって公印を押してもらうような手配もできました。
到着当日シャルルドゴール空港に着いてから国内機でマルセィユまで飛んで、そこからフロバンスに入っていくのですが、その車の予約ができて、そのガイドを兼ねた運転手さんがなんと日本人男性だということで、彼が次の日のフローラの獣医さんでの診察、その後マルセィユまで出てフランス国の公印を押してもらう、その日も車を運転して、ガイドも引き受けてくださるとのことで、とてもラッキーが重なってフランスへの旅の夢はふくらんでいきました。
 私は出発日、帰国日、それぞれの飛行機発着時間が決まったところで息子幹太にメールをだしてこの日は仕事を休んで送り迎えをして欲しい旨を伝えました、彼からは即了解のアンサーが届きました。
これで後はいつもかかりつけの動物病院で必要な注射を打ってもらって、検査で数字を出して、ドクターHに検疫の書類を作ってもらう、出発日までにそれを持って羽田空港動物検疫所でフローラの国外へ出る、そして国内に入る書類が完備しているかどうかの審査をうければいいのです。
フランスへの旅立ちの準備は着々で気持ちはすでにフロバンスに飛んで行っているようなものなのですが、目の前の現実は遅々として仕事がはかどらないのです。
自分自身の段取りの悪さ、整理整頓の苦手さ、この性癖には実に自分のことながら腹立たしい思いでしたが、とにかく出発目前まであたふたあたふたと抱え込んだ仕事に精を出して、時々フランスのことを考えてにんまりと笑って、いやいやここでこの仕事に決着をつけなければ出発はできないとまたあたふたあたふたの日々を過しました。

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