ニューヨークの旅 No.18 第5日目・8月13日(土)

抱えてきた大荷物をベッドの上にビニール袋のまま置くとウランに水を飲ませて、私たちは今度は地下鉄116駅に向かって、アパートメントハウスを飛び出しました。すっかりあれも、これもとショッピングに夢中になっていて、MS.TOMOKOとの「お昼を一緒に食べましょう」という約束時間を失念してしまっていました。そこがやはり「これからは物欲は消滅、物に執着しない、欲しがらない」という戒めをなかなか守りきれない私と、マダムもまだ完全マダムになりきっていない、そういうところのある私たちはまだ未熟者だということなのです。

でもそうなると……、これって成長途中なの?、私の人生はまだこれからってことなの?!、すぐに自分に甘くなる私のおばさん心なのですが、でも多分この要素が1番私の成長を妨げているところなのでしょうねーと、ニューヨークで再確認する思いでした。

いつものアパートメントハウス近くの地下鉄116駅から乗って、昨日の長く歩いて、やっと地下鉄に乗った駅、59・コロンバスサークル駅まで行きました。その駅からしばらく歩いた53丁目にあるPICK A BAGELという名前のベーグル屋さんがMS.TOMOKOとの待ち合わせの場所、ベーグル屋さんなのです。このお店がニューヨークでも今1番人気なベーグル屋さんで、MS.TOMOKOのファミリーでは「あそこのベーグルはおいしい!」といち押しのお店なんだそうです。

私たちは汗ダクになってやっとたどり着きました、ドアノブを引くとスーッと涼しい風が、ベーグルのなんともいえないおいしくて香ばしい匂いが、そして「ウランちゃーん、いらっしゃーい!」とMS.TOMOKOと娘さんのSORAちゃんの笑顔が迎えてくれました。

「待っていたんだけど、待ちきれなくて、お先に食べ始めてしまったのよ」「あらー、ごめんなさいねー、朝1番でショッピングモールに行っちゃったからね、遅くなっちゃって……」マダムとMS.TOMOKOとの会話はまるで高校時代に戻ったかのような雰囲気を漂わせて、ああ、これも青春と誰かの歌の『キメフレーズ』、その歌詞ではないけれど……、ほほえましいものでした。

「お腹が空いたわねー!」思わずそんな声が飛び出るほどこのベーグルを焼いている匂いはおいしくて、食欲をそそるものでした。

MS.TOMOKOの娘さん、SORAちゃんは小学校の理科の先生をしているということですが、でも雰囲気的にはまるで大学生、いやいや高校生にも見えるほどかわいらしいのです。

「SORAちゃんは小学生の子供たちに交じれば、同じくらいに見えるでしょ!?」私が笑いながら言うと、「そうですねー」と恥ずかしそうに微笑む、そんな雰囲気が日本の若い娘さんたちと違って初々しく、とても新鮮に見えました。

「あのー、盲導犬って、ウランちゃんが初めてなんですよ」彼女ももともと犬大好きなのに、その上日本からやってきた盲導犬だというので好奇心いっぱい、張り切ってやや興奮気味です。「私のやんちゃでかわいらしい生徒たちに教えなければね、こんなにおりこうさんだなんて……、感激だわー!」と言った後、小さく笑いながら「あの子たちにウランちゃんの爪の垢でも飲ませたいほどだわ」とつぶやくのです。

このお店では数えきれないほどの種類のベーグルがあって、説明を聞いているうちに迷って迷って、なんだか頭が混乱、わからなくなりそうだったので、私はごく平凡な『ツナ野菜ベーグル』をオーダーしました。それに比べるとマダムはやや奇抜に『豆腐と五穀野菜のサンドベーグル』を注文しました。そしてその私たちの注文と同時にウランには食器に入った水が運ばれてきて、「日本から来た盲導犬に是非プレゼントのベーグルを」と店長さんが「何がいいでしょうか?」と注文のお尋ねがありました。

「いえいえ、この子は盲導犬ですから、特別な食べ物はいらないんですよ、朝ごはんを食べているから次は夕食まで食べ物は無しです」とお断りをしましたが、ではチーズだけでもという重ねてのお尋ねがありました。こんなことですからもちろんお店全体が盲導犬大歓迎の雰囲気いっぱいでした。

運ばれてきたベーグルサンドイッチはとても大きくて、とてもボリュームたっぷり感があって、食べられるかなーと不安に思うほどでしたが……、やはりさすがの私にもこの1個まるまるは無理でした。喉を通って行く冷たいコーヒーがただただおいしくて、こんなにアイスコーヒーっておいしかったかなーと思うほどでした。結局私もマダムもベーグルは半分だけ食べて、残りは持ち帰りとして紙ナプキンに包んで、そーっとバッグの中に入れました、これは明日朝、飛行場へ向かうあわただしい朝ごはんになることでしょう。

そんなこんなをしているうちに時計はすでに2時を回って3時に刻々と近づいています。「ねえ、私たちまだ行かなければならないところがあってね、だからあまりゆっくりできなくてごめんなさい」とマダムが謝って、それでも名残惜しいので写真を撮りましょうということになりました。

歩道に出て写真をお互いに撮りあっていると、お店からちょっとヤンキーボーイ風の彼が「ボクが撮ってあげましょう」と出てきました。その日本でいうならばお笑い芸人風彼が、また傑作なパフォーマンスをしながら私たちを笑わせて撮ろうとするのですが、私は内心「こりゃーあかんですわー!」と思いました。ウランの好みの男性タイプは頑固なまでに決まっていて、優しそうで、どちらかというとやや迫力のなさそうな、菜食系男子です。それがわが息子、幹太のタイプで、ウランはこの世の中で男といったら兄ちゃんだけが大好きと思い込んでいる女心を持っている犬なのです。そしてウランが最も好きではない男性のタイプは……、その『お笑い芸人風』なのですから、これはもう最初からミスマッチングだとわかっているものなのです。

マダムも私も、そしてMS.TOMOKOも、SORAちゃんも、笑うのに、ウランだけがそっぽを向いて、『わたししらなーい』と、まるでカメラを無視し続けているのです。にわかカメラマンボーイはそれでもサービス精神満点、汗だらけで笑わせようと、ウランの注目をこっちに向けさせようとするのですが……、しかしウランはますます不機嫌そうになってしまって、ますます首の角度が後ろ向きになってしまうのでした。結局この時の写真はどれもが『ウランそっぽを向くの巻』となってしまいました。

このベーグル屋さんでMS.TOMOKO母娘さんとさよならして、私たちは次の訪問地へ向かうために地下鉄への道をまた歩き出しました。

”写真018”

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