バスの中で

 近頃暑くて暑くて、夜もやや寝不足気味、それでいささか頭がボーッとしています。
だからバスに乗ると、クーラーがきいていてあまりに良い気持ち、ついついウツラーッとしてしまいます。
先日バスの座席でまたまたその夢のいざないに堕ちかかっていたら・・・・、隣の座席から「奥さん」と声をかけられました、それは明らかにおじいさんの声でした。
「どこのバス停留所で降りるの?」とたずねてきました。
私が気持ちよさそうにコックリとなっているので、乗り越さないように降りるバス停留所が近づいたらおしえてあげると言うのです。
「ありがとう」と私はバッグの中から飴キャンディーをひとつ取り出して、「これおいしいわよ」と掌に乗せました。
「梅干し飴だね、暑くて塩分不足だから助かるよ、ありがとう」とおじいさんは口の中にそれを入れました。
「奥さんが眠っていても、足元のワンちゃんが踏まれないように、見ていてあげるからね」と、その親切おじいさんは言ってくれます。
「ありがとう」と言ったものの、私の居眠りをすっかり見ていたのかしらと思うと、決まりが悪くてその眠気もどこかへふっとんでいってしまいました。
「この飴もいかが、レモンだから口の中がスーッとして、おいしいよ」と、バッグの中から今度はレモンキャンディーを取り出して、おじいさんの掌に乗せました。
「レモンも大好きだよ、ありがとう」とおじいさんは嬉しそうです。
「さよなら」と立ち上がる前に、私はまたバッグの中をゴソゴソして、今度はトマトキャンディーをひとつ取り出して、「これもいかがですか?」と掌に乗せました。
「奥さんのバッグって魔法のバッグだねー!」とおじいさんは感心してくれています、そこで私は「そうよ、私って魔法使いのおばあさんだから」って言いました、それもニコニコ笑いながらです、足元のウランが「お母さん、うそっこついちゃあダメだよ」って見上げています。
そんなおじいさんとおばあさんの平和な会話を乗せて、バスは炎天下の道を走って行きます。

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