ニューヨークの旅 No.14 第4日目・8月12日(金)

ニューヨーク市で1番の目抜き通り、世界の有名店、華やかなブランドショップが軒を並べている5番街に荘厳なる雰囲気を漂わせて、周りを睥睨するかのようにドーンと構えているのがセント・パトリック教会です。ここでは誰もが名前を知っている『有名人カップル』が数知れず結婚式をあげているということです。そしてこのニューヨークへの旅の中で、昨日のトリトニィ教会についで私たちが訪ねる2ヶ所目の教会です。

今年のニューヨークの旅には、夏休みといいながら仕事の都合で休みがとれずに一緒に来られなかったミセスKがスイスで、カナダで、とても不思議そうに言うのでした。

「なぜななえさんは旅先で、こんなに教会を訪ねたいと思うのかしら、これってちょっとしたナゾじゃあないの?!?!」と。「そうでしょ、この私だって表面的には単純なおばさんだけど、本当は不思議なほど謎めいている女なのよ」いつでもこう応えるのですが……、きっと懺悔しなければならないことが旅という非日常生活の中で私の心に芽生えるのでしょう、その程度にしか自分自身にもわからない、でも旅先では不思議に「この町の教会に行ってみたい」と、そう思わされる気分になるのです。

セント・パトリック教会の重い玄関ドアを開いて、聖堂に入っていくと、お昼のミサの真っ最中で、ソプラノのきれいな歌声がすてきに響き渡っていました。たくさんの信者さんたちがミサに参加していて、1階のどこにも空いている椅子がないということで、階段を上がって2階の木の椅子をやっと見つけました。

「ずいぶん甘い歌声だわー…」とマダムは言っていました、そういえば3年前の夏マダムが住んでいたブラジルサンパウロの長期滞在型ホテルのすぐ近くの教会、あそこのミサのボーイソプラノの歌声は本当に天使のような澄み渡って心のひだの中まで染み込んでくるようでした。でも私は天使ではないけれど天女のようなこの歌声、きれいな歌声にしばしうっとりとしてその木の椅子に腰をかけていました。

もっとも教会の中は涼しくて、戸外の猛烈な暑さを身にまとって入ってきた私たちにとってのこの快い涼しさ、これだけでも「ああー天国!」と思えるものでしたから。しばらく自分の心の中を回遊するかのような黙想しているうちに聖堂が静かになってきて、お昼のミサは終わったようです。

人々の動く気配が、聖堂から暑い戸外へ動いています、私もこの涼しさにはとても名残惜しい気持ちがしましたが、そしてウランも同じ気持ちだったのだとは思いますが、マダムに促されながらノロノロと椅子から立って、玄関ドアに向かいました。

たくさんのブランドショップが立ち並ぶ5番街ではまずラルフローレンのお店に入りました。このブランドのコットンシャツはかなり私も好きで、10数年前に買ったボタンダウンの縞模様のシャツは毎年夏になるとご愛用、洗濯が激しいのですでに布地そのものがクタクタなのですが、そうなるとますます着心地が良いので丁寧にアイロンをかけて身につけています。今回もサイズがあえばもう1枚買いたいと思っていましたので、積極的に探す気持ちです。

サマーバーゲン・コーナーがあって、そこに麻のチェック柄、「おおー、ピッタリ!」というシャツを30%オフで見つけました、その瞬間に私の財布のひもがユルユルと開いて即「買い!」となりました。

マダムも同じように買い物をして、意気揚々とラルフローレンショップから出て数件先のティファニー本店に向かうところで、急にあたりが騒然としていることに気がつきました。

「あらー、ななえさんニューヨークファイヤーカーだわ!」とマダムの足がまず止まりました。私たちが向かう方向から消防車があの独特の警報音を響かせて何台もやってきます、向かい側のビルの上の方でボヤ騒ぎのようです。消防車が止まって、かっこいいファイヤーマンが何人もその車から飛び出してきて、きびきびした動作で消火作業を始めています。

マダムの「まあ、なーんてかっこいいんでしょ!」とうっとりとした声、それからあわててカメラを取り出して、「ななえさん、そこ、そこに立って!」と記念写真を写し始めました。「いいのかなー、こんな時にさー……」とは思いながらも、私も、ウランも、ちゃっかりその写真におさまりました、もちろん「はーい、ポーズ!」なーんてことはありませんでしたが……。

ニューヨーク子たちも好奇心はかなりなもので、すぐに野次馬の人、ヒト、ひとたちが集まってきて、その記念写真撮影はほんのひとときでおしまいとなりました。

「ななえさん、ここで足止めをくってしまったら大変よ、身動きできなくなってしまうわ!」いつまでもぼんやり様子を眺めている私にマダムが声をかけて、腕を強くひっぱって、先を促します。

そして次に足を止めたのがティファニー本店です、ここの歩道でオードリー・ヘップバーンが紙袋をガサガサさせてパンを食べながら軽やかなステップで踊ったのが映画『ティファニーで朝食を』の1シーンです。あの映画を見たころはまだ25歳ころだったでしょうか、盲導犬と一緒に、まさか自分がそれから数十年後に同じ歩道に立とうとは、その時は考えてもみませんでした。まさしく「ああ、あれから45年!!!」の気分でした。

歩道に立った私たちをどこのお店よりかっこいいドアマンのお兄さんが、にこやかでさわやかな商売用笑顔で「さー、どうぞ!」のポーズで迎えてくれています。

1階のフロアは私ごとき人間が豪華などという言葉もおこがましいほどのすばらしいダイヤモンドの輝きがあちらこちらから綾模様を織り成しているかのように交差、その光の輝きを全身で受け止め浴びただけで、すごーくふところが温まってきてお金持ちになった気分がしました。先ほど立ち寄って買い物をしたラルフのショップもそうでしたが、エレベーターはガールではなくてボーイで、そのお兄さんがまたまたかっこいいのです、思わず日本のおばさんの目は小粒のダイヤモンドハート型になりそうでした。

最上階にティファニー本店でしか扱わないこのショップオリジナルコーヒーカップがあるとマダムは言うのです。「ななえさんはコーヒーが大好きなんだからね、それを自分へのおみやげにどうかしら???」とも勧めてくれるのです。ところがそのカップにはなんとなんと、『made in JAPAN』の印字があったのです。「これじゃあなーってことだわねー!!!」マダムはがっかり、私もがっかりで、ただウランだけが『ふーん!』と覗いて見ていました。

「それに普段使いのカップが1万円もするだなんて、やはりここはティファニーだわ!」私は手に持ったそのカップが急に重く感じられて、床に落とすのではないかしらと、あわてて飾り棚に返しました。

結局憧れのティファニーはその憧れの気持ちだけで終わってしまって、さすがの私の財布のひもは決してゆるむこともありませんでした。しかしこのお店でまたすてきな出会いがひとつありました。

私たちが下りのエレベーターに乗りましょうとそのドアの前に立っていますと、後ろから声をかけてきた人が居ました。それはこのフロア担当の女性で、「この犬は日本の盲導犬ですか?」と尋ねてきたのです。そして話をしているうちに、彼女のお宅には聴導犬が居ることが、その上聴導犬の子犬を育てていることもわかったのです。家族のどなたかがその聴導犬と生活しているということでした。

「でもこんなにかしこくて、おりこうさんではないわー!、なーんてかわいらしいドッグかしら!!」と、またまたここでもウランの評判がグーンと上がって、私は低い鼻をヒクヒクとさせて、ウランはにわか仕立てのとびきりおりこうさん盲導犬となりました。

「なにか飲みましょうか?」ティファニーのお店から出たところでマダムが声をかけてきました。私も肩の緊張をほぐして、少しホッとした気分になりたいなーと思ったところだったのです。「いいわねー、冷たいものでも何か飲みましょう」と大賛成、そしてウランも『のみたい、のみたーい!』と体を摺り寄せてきます。

しかしここは世界の名だたるブランドショップばかりが立ち並ぶニューヨーク5番街、汗だらけの私たちが気軽に入れそうなカフェがなかなか見つけられないのでした。それでは少し先にということで歩いて行きますと、上を見上げて「あのビルはね、トランプさんのものだわ」とマダムが指さして言うのです。トランプさんとはアメリカ大統領選挙の共和党候補者トランプ氏のことです、私もそのビルを見上げて「なぜそれってわかるの?」と尋ねかえします。「だってあのビルの窓枠が金ピカなんだもの、あそこのビルも多分そうだわ、同じような窓枠だもの」とマダムが言うのでした。

「それならさ、あのトランプおじさんってずいぶんお金持ちなんだねー、この5番街にそんなにいくつもビルを持っているんじゃあ」「そうそう、そうよ、ずいぶんな金満家じゃあないのかしら」「あの顔ってさ、俺こそ世界の金持ちだーって顔だもんねー!」と、眼の見えない私がまるで見える人のように言って笑うと、マダムも「あはは!」と声を出して笑うのです。

「あらー、あれってなにかしら?」とマダムがまたまた足を止めました、そして私も、ウランも、それにならって足を止めました。大きなビルディング、それはだれもが知っているアメリカ資本の保険会社で、その玄関ドアのところに『自由の女神』の銅像が立っていました。そして中国の人らしき男性が写真を撮っています。

「なぜ、ここに?」の顔の私たちに、「これはフランスから送られてきた自由の女神の原型だということですよ」と、彼が流暢な英語で教えてくれました。そして彼が「よかったら写真を撮ってあげましょう」と言うのです。ではと私がその像の前に立って、自由の女神のように片手をあげて、日本の自由のおばさんとなっての記念写真、マダムも、中国のかっこいい彼も大笑いでした。

ただウランだけが、『まあ、うちんちのお母さんはほんとうに?!』とあきれ顔でした。

”写真014”

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