『ビタミンファイト』

かつて猛烈に頑張らなければならない私の50代の10年間がありました。
夜の睡眠時間も惜しんで、奥歯をかみしめて、ワープロのキーを叩いて、そして時々とる休憩時間には必ず大沢在昌の本を読むのです。
スリル満点、あれだけ打ちのめされて意識朦朧となりながら、数時間後には復活して、家と家との間の外壁を両足で全体重を支えて何階もの建物を下りて地上に、それから素早く逃げ去るのですから・・・・、まるで主人公の新宿鮫は嘘でしょうと思いながらも、私の体内から猛烈なファイトが沸騰するようにエネルギーとして沸いてくる不思議な魔力のある本でした。
そしてこの本でその時、その時のファイトを漲らせて、踏ん張るだけ踏ん張って、私の50代と60代の前半は過ぎて言ったように思います。
だからこの著者の新宿鮫シリーズは私にとって懐かしい本、まぎれもないビタミンファイトなのです。
しかし最近とんとこのビタミンファイトを必要としない日が続いて、おばあさんになった今は、「よーし、がんばろー!」という時には、何といっても1杯の珈琲が頼りです。
あの深みのある香りと濃い焦げ茶色を飲み込む時の、のどを伝わっていく感覚が、私の体内にささやかなエネルギーを沸き立たせてくれます。
この時の1杯のコーヒーこそは、私にとって《コーヒー》ではなくて、《珈琲》と言えるものなのです。

【写真】元気なフーちゃん

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